2025年10月15日お知らせ

ウールの裏側を知る:ミュールジング問題と私たちができるエシカルな選択

環境学習プラザ「アスエコ」では

現在、サステナブルなファッションについて一緒に考えてほしくて

エシカルファッションについての展示を行っています。


それに関連して、今回のテーマ
「冬のセーターや高機能なアウトドアウェアに欠かせない
ウール(羊毛)。」についてです。

その温かさと機能性は私たちに快適さをもたらしますが、原料である羊の生産過程には、

目を背けてはならない
動物福祉に関わる深刻な問題が隠されています。


その問題が、羊の体の一部を切り取る外科処置「ミュールジング」です。

この記事では、ミュールジングとは何か、なぜ問題なのか、

そして私たちがどうエシカルな選択ができるのかを解説します。

1. ミュールジングとは? 羊に苦痛を強いる処置の背景

ミュールジング(Mulesing)とは、

主に羊毛の生産量を増やすために品種改良された

メリノ種の子羊に対して行われる処置です。

処置の目的は「病気の予防」

多くの羊毛を採るために品種改良されたメリノ種は、全身の皮膚に深いシワがあります。

このシワにお尻の糞尿や水分が溜まりやすくなると、そこにハエが卵を産み付け、

孵化したウジが皮膚や肉を食い破る

フライ・ストライク(蛆症)」という病気が発生します。

フライ・ストライクは羊にとって耐え難い苦痛を伴い、放置すれば死に至ります。

ミュールジングは、この病気を防ぐために、シワのある皮膚と肉の一部を切り取り、

傷跡を滑らかにしてハエが卵を産み付けにくい状態を作るための

予防的な外科手術として行われてきました。

最大の問題点:無麻酔の苦痛

動物福祉団体が長年批判してきた最大の理由は、

この処置が従来
麻酔なしで、鋭いハサミなどを使って行われてきた点です。

子羊は激しい痛みとショックにさらされ、これは明確な動物虐待であると

国際的に問題視されています。

2. 麻酔だけでは解決しない、より深い倫理的課題

近年、一部の生産国では麻酔や鎮痛剤の使用が導入され始めていますが、

これでミュールジング問題が解決したわけではありません。

議論が続く背景には、いくつかの深い懸念点があります。

① 人間が生み出した「苦痛のリスク」

ミュールジングが必要になった根本的な原因は、

人間の経済的な利益(多くの羊毛)を最優先するために、

病気のリスクを高めるシワの多い体質を羊に

意図的に品種改良して作り出したことにあります。

羊にとって不利で、生涯にわたる苦痛のリスクを高める形質を、

人間の都合で固定化する行為そのものが倫理的に問題です。

② 羊の「商品化」という構造

ミュールジングは残酷な処置ですが、それが廃止されても、

羊毛を採取するために羊を人間の管理下に置き、

毛刈りや、ミュールジング以外の無麻酔の断尾・去勢などの処置を行う

「動物の利用」という構造は変わりません。


ミュールジングの廃止は「苦痛の軽減」ですが、

「動物を手段として利用する」という倫理的ジレンマは依然として残ります。

③ 代替策への課題

ミュールジングを廃止し、シワの少ない品種に切り替えたり、

頻繁に毛刈りをしたりする代替策はコストや手間がかかります。

また、フライ・ストライク予防のために
化学薬品(防虫剤)を使用する代替策もあり、

これによる
環境負荷ハエの耐性獲得といった新たな懸念も生じています。

3. 私たちのエシカルな選択:「ノンミュールジングウール」の意義

これらの複雑な倫理的課題を抱える中で、

私たちが今できる最も現実的かつ効果的な行動が、

「ノンミュールジングウール」を選ぶことです。

ノンミュールジングウールを選ぶ意味

ノンミュールジングウールは、

ミュールジングを行わずに飼育された羊から採られた羊毛です。

  1. 残酷な慣行の拒否: 最も極度の苦痛を伴う処置が行われていない製品を選ぶことで、

    羊の個体への直接的な苦痛を減らすことに貢献します。

  2. 市場へのメッセージ: 私たちがこの製品を選ぶことが、

    生産者に対し「動物福祉に配慮しない羊毛は買わない」

    という明確なメッセージを送ります。

    これにより、産業全体をミュールジングの廃止と、

    より優しい飼育方法へ動かす経済的な圧力になります。

究極の問い:羊毛は本当に必要か?

もしあなたが羊毛の機能性を特に重視していないなら、

日常の衣類はポリエステルや綿、植物由来の繊維で十分に代替可能です。

しかし、羊毛(特にメリノウール)は、調温性天然の防臭性

汗冷えの軽減という複合的な機能を持つため、

数日間にわたる過酷な登山・アウトドア活動用のインナーなど、

代替が非常に難しい分野もあります。

まとめ:完璧ではなくても、より良い選択を

ノンミュールジングウールを選ぶことは、

動物の権利の観点から見れば完璧な解決策ではありません。

しかし、それは『「残酷な処置を容認する」か「残酷な処置を拒否する」か』

という現実の選択の中で、


苦痛を最小化するために私たちができる重要な一歩です。

ウール製品を選ぶ際は、ぜひタグを確認し、

「ノンミュールジング」であることを確かめてみてください。

その小さな選択が、羊たちの暮らしをより良い方向へ変える力になります。

ミュールジング問題について知った今、次にウール製品を購入する際は、

どのような点に注目したいですか?

ウールの裏側を知る:ミュールジング問題と私たちができるエシカルな選択